Thorens 社の TD521 は 1987 年の発売当時、同社を代表する高級ターンテーブルでした。 SME 社のロングトーンアーム 3012R と最初からセットになっていてオートリフトアップ機構も付いた TD520 というモデルもあるのですが、私の場合は(その方が安かったと言うのもあるのですが)アームレスの TD521 に 3012R を後から組み合わせて、もうずいぶん長い間使用しています。
吊り下げ式フローティング・サスペンションにベルトドライブなど国産プレーヤーの重量級ダイレクトドライブとは真逆の発想で作られていて一見安っぽい感じもしますが、国産プレーヤーがほぼ全滅状態の現在ではベルトドライブは主流になっており、音質的にも好ましい傾向にあるようです。 オルトフォン 社の SPU シリーズなど重量級で重針圧タイプのカートリッジ専用に用意された感のある TD521+3012R ですが、私は軽量、軽針圧の SHURE を使用しており、本来であればミスマッチなのかもしれません。でも、この美しいデザインに惹かれ他の選択肢は考えられませんでした。
ベルトドライブという構造上、定期的にゴムベルトの交換を余儀なくされるのは致し方ないことですし、トーレンスの純正ゴムベルトは現在でも簡単に入手できるため問題はないのですが、純正ベルトは少し耐久性に問題があるようで、すぐに伸びて外れるようになってしまいます。 そこで、何か純正ベルトに代わる良いものはないものか?と思案した結果、ベルトの駆動部分を改造してみることにしました。
なお、駆動の構造はプレーヤの性能に大きく影響するため、試しにやってみようと思われる方は、くれぐれも自己責任でお願いします。
1.純正ゴムベルトは幅が約 5mm の平ゴムベルトで、モーターの動力をプラスチック製プーリーを介してアルミ削り出しのインナープラッターに伝えるようになっています。 亜鉛合金製のアウタープラッターはインナープラッターの上に乗っているだけです。
モーターのトルク変動をゴムのベルトが吸収し、重いアウタープラッターの慣性で安定した回転を得るようになっています。
初期型のインナープラッターはアウタープラッターと同じ亜鉛合金製のようですが、私のは後期型なのかアルミ削り出しです。亜鉛合金製の初期型の方が音が良いとの評価もありますね。
2.このゴムベルトの耐久性があまり良くないのか、1年~2年でかなり伸びてしまいます。
伸びると、スタートスイッチを入れた時に頻繁にゴムが外れるようになってしまいます。
1.古くなった会社のパソコンで CD/DVD ドライブのトレーが開かなくなるトラブルが結構頻発するのですが、 何か良い方法はないものか?とネットで調べているうちにバンコードというものを見つけました。
因みに今回使用したのはφ 1.5mm の太さのものです。Amazon で簡単に手に入ります。
2.このゴムはライターなどで両端を炙ってくっつけると簡単に輪ゴムにすることができます。
接合部分のバリを爪切りやニッパーみたいなもので切り取って綺麗にすると、立派な輪ゴムが完成します。
サイズも自由自在で、パソコンの CD/DVD ドライブや私が使用している古い CD プレーヤのトレーなど何台か修理してみましたが問題なく普通に使えます。また、黒い輪ゴムより耐久性も良いようです。
1.バンコードの断面は円形で、平コードはありません。
このままでは純正プーリーにセットできないため、プーリーを特注で作ってもらうことにしました。
2.完成したプーリーです。
アルミ削りだしのプーリーを日本プレート精工さんにお願いして作ってもらいました。 アルミを旋盤で削り、アルマイト処理した完全なオーダーメイドですので、納期 2週間、費用も 25,000 円位かかりましたが、とても良い仕上がりです。 その時に使用した図面のデータは公開しますので自由に使用してください。 φ1.5mm の太さのバンコードを使用することを想定しています。
3.純正プーリーを外して、特注プーリーをセットします。
プラスチックワッシャー、プレート、スプリング、特注プーリー、M3ワッシャー、固定リングの順でセットします。 固定リングの裏のフェルトは、擦り切れていたので綺麗に除去しています。(このフェルトの劣化がベルトが外れる一番の原因のようです) また、ステンレスのM3ワッシャーは手持ちのものを使用しています。 このワッシャーがないとクラッチ機構が上手く機能してくれず、スタートスイッチを押して回転が安定するまでモーターからカタカタ音が出てしまいます。 ワッシャー部分にグリースを少量付けておくと、よりスムースにクラッチ機構が働くと思います。
4.プーリーの取り外しや、取り付けには六角レンチが必要ですが、インチ規格の小さなものが見つからなかったので、カッティング砥石を取り付けたリューターで削ってサイズを合わせました。また、特注プーリーの中に入るよう短く切っています。
5.プーリーを取り付けたところ。
プーリーの底面と、インナープラッターの底面が同じ高さになるようにセットした時、丁度良くなるよう設計したつもりだったのですが、 アウタープラッターとの隙間がシビアすぎて干渉しやすいため少し押し込み気味にセットします。 また、プーリーを押さえて回転しないようにしたままスタートスイッチを押した時、クラッチ機構が上手く動作してスムースに空回りすることを確認します。
1.ベルトガイドがバンコードに干渉して邪魔になるので、このベルトガイドは取り外してしまいます。
ゴムベルトの外れ防止に役立っているわけでもなく、このガイドは何のために必要なのでしょうか?
2.バンコードをセットする溝は全部で5本切ってあるので好みの位置を使用します。
因みに私は上から2番目の溝を使用してセットしてみました。 色はちょっとイマイチですが、糸ドライブのプレーヤーのようです。
3.アウタープラッターをセットして、プーリーが干渉しないかチェックします。
プーリーの厚みをかなり厚くしたため、サブフレームの高さと水平をシビアに調整しないと干渉してしまいます。 溝を 1 段少なくして少し薄く作った方が良かったかもしれません。 詳細な調整方法については「調整方法のまとめ」を参照してください。
4.その後乳白色のバンコードをここで見つけました。
オレンジ色のに比べるとちょっと硬いのですが、何とか使えそうです。
5.やはり色はこちらの方が良さそうです。
テンションが強いので軸の負担が少しでも軽くなるようプーリの下の段にセットしました。
6.ゴムシートやマットをセットした時に水平になるよう調整して、プーリーに干渉することなく正しく回転するか否か最終チェックします。
スタビライザーを使用する場合、その重量でターンテーブルが沈みプーリーと干渉してしまう場合があるので、その場合はスタビライザーの重量による沈み量も考慮してサブフレームの高さと水平を調整し直します。
今回特注してもらったプーリーの精度はかなり良く、モーターの駆動軸に対するがたつきやブレはないようです。 また、バンコードの接合部の影響によるターンテーブルの回転ムラも感じられません。
ベルトの違いによる音の差は私には分からないようなので、このまま使用して何年くらい大丈夫か?耐久性のチェックをしてみようと思います。 今回バンコードは1本掛けにしましたが、プーリーの溝は全部で5本切ってあるので、2連、3連掛けなどを試してみるのも面白そうです。
※ バンコード仕様にしてから既に十数年経過していますが、未だ問題無く動いています。ゴムが切れたり伸びて外れるといったトラブルや、ターンテーブルの回転ムラなども感じられません。かなり耐久性は高いようです。
しつこいようですが、駆動の構造はプレーヤの性能に大きく影響するため、試しにやってみようと思われる方は、くれぐれも自己責任でお願いします。