MDR-CD3000 は 1991 年に発売されたソニーの高級ヘッドフォンです。 当時 MDR-R10 という 30 万円以上する超高級モデルもあったのですが、さすがに高級すぎて簡単には購入できませんでした。 MDR-CD3000 は MDR-R10 の技術をフィードバックして生産されており 2004 年に生産終了後もこれに代わる後継機種がないことから、今でも愛用している人は多いのでは?と思います。 バランス的には若干高域寄りですが音場が広く耳あたりの良い音で密閉型ヘッドフォンの名機と言われており、 程度の良いものはオークションなどでも高値で取引されているようです。
ただ、このヘッドフォンはヘッドバンドやイヤーパッドなどに使用されている合成皮革の耐久性が悪く、 5 年位放っておくとネトネトになったりボロボロと剥がれてきたりします。 私は発売とほぼ同時に購入したので既に 30 年以上所有していることになりますが、途中何度か修理に出しています。 イヤーパッドの純正補修部品は既に手に入らないようです。 また、最初日本製だったこのヘッドフォンもいつの頃からか中国製になっていて、 ヘッドバンド部分を修理でアセンブリ交換されるとバンド付け根の刻印が china となってしまいます。 オリジナルの状態から変わってしまうのが嫌で、革の部分を自分で取り替えてしまおうと思い立ちました。
なお、試しにやってみようと思われる方は、くれぐれも自己責任においてお願いします。
作業は基本的にサービスマニュアルを参照しながら行います。
1.まず、イヤーパッド(4-946-220-01 / 4-946-221-01)を取り外します。
イヤーパッドは矢印の方向に引っ張れば外れます。
2.赤丸で囲んだ3箇所のビス(4-920-209-11)を外します。
3.左右ともビスを外してハウジング(4-946-226-01 / 4-946-227-01)ごとフロントプレート(X-4941-883-1 / X-4941-884-1)を外したところ。 ドライバー(1-505-132-11)の前に付いているウレタンシート(4-947-053-01)も溶けてボロボロになっています。4.赤丸で囲んだ3箇所のビス(7-685-135-19)を外します。5.左右ともビスを外してハウジングとフロントプレートを分解したところ。6.ヘッドバンド(A-4540-110-A)を外すためには、左右ともハンダを溶かして渡り配線用の細いコード外しておく必要があります。 後でわからなくならないよう取り外した位置に赤と黒のマジックで印をしておきます。7.ドライバー(1-505-132-11)の前にあったであろうウレタンシート(4-947-053-01)は溶けてベトベトになっています。 アルコールや掃除機または息を吹きかけたりしながら綺麗にしていきます。掃除機を使用する場合、必ずブラシヘッドを使用し弱モードで吸引します。強く吸い過ぎると振動板が破損します。8.両ドライバー共に綺麗にしたところ。
9.アジャストバンドは腕時計のベルトを止めているのと同じような金具で取り付けられています。 金具の両端は押せば引っ込むようになっていますので、どちらか一方を引っ込めてから外せば簡単に取れます。10.赤丸で囲んだ5箇所のビスを外すとカバーが取れます。 左右とも同様に外します。11.カバーの中に赤丸で囲んだ2箇所のビスあるのでこれを外すとヘッドバンド(A-4540-110-A)がバラバラになります。
12.バラバラになったヘッドバンド部分。
コードはフローティングベース(4-946-222-01 / 4-946-223-01)を支えるハンガーの溝に差し込んであるので、注意しながら引き出してください。
1.ヘッドバンドの中の骨を引き出します。
引っ張れば簡単に出てくると思います。2.中のスポンジやプラスチックの型板を取り出すため外革をハサミで切ってしまいます。3.一番上の外革は使用しませんが、スポンジとプラスチックの型板はそのまま使用します。
4.外革はハンズで購入した牛皮革の端切れを使用します。
おおよそ 23cm × 8cm 程度の大きさに裁断します。使用する革の厚みによって若干サイズを調整する必要があります。5.そのままでは針が通らないので縫い合わせる位置に穴を空けていきます。
6.骨にスポンジを被せ、プラスチックの型板ごと外革で巻いてボール縫いしていきます。 細いコードも通しておくことを忘れないようにします。 これは野球のボールや自動車のハンドルと同じ縫い方です。 もっと身近なところでは靴紐と同じ縫い方だと思います。 写真は片方から1本の糸で縫っていますが、靴紐と同じように両方から縫っていった方が遥かにやりやすいし綺麗にできます。 (後でもう一度やり直しました。(;^_^A ) 今回は赤い糸を選んでみました。縫い物なんて小学校の家庭科の授業以来かも・・・7.全部縫い終わったら端がほつれないよう瞬間接着剤を少量付けて固定します。 細いコードを避けながらプラスチックのステーを元通りに取り付けます。
8.フローティングベース(4-946-222-01 / 4-946-223-01)を支えるハンガーの穴にコードを通して蓋をします。
9.コードは前側の溝に入れて付け根までもっていきます。 写真は間違えて後ろ側になっていますが前側の方が良いと思います。
10.とりあえずヘッドバンド部分が完成しました。
11.ソフトレザーなので手触りもわりと良いです。また本革仕様になったので今後べとついたりボロボロになったりはしないと思います。 今回はなるべくオリジナルに近いのを選んでみましたが、革や縫い糸を変えると色々なバリエーションができそうです。
1.アジャストバンドの外革もハサミで切って中身を取り出します。 金具はステンレスですが、型板は紙製です。2.紙だと折れ曲がってしまうので、塩ビの板を同じ形に切り出します。
3.金具を紙の型板と塩ビの型板でサンドイッチするようにスーパーXで接着します。
4.革の裏側にスーパーXを薄く塗布し型板を挟んで接着します。 この後乾くまで2時間~3時間程度放置します。5.穴を空けて平縫いしていきます。
6.縫い目に沿って切り抜きアジャストバンドが完成しました。 縫い目がいまいち揃っていませんが、気にしないことにします。7.アジャストバンドを元通り取り付け、本革仕様のヘッドバンドが完成しました。 これでヘッドバンド部分は今後短期間で駄目になってしまうようなことはないと思います。
分解したのと反対の手順でヘッドフォンを組み立てていきます。
1.コードを通す位置に注意してフローティングベース(4-946-222-01 / 4-946-223-01)をハンガーに取り付けます。2.ドライバー(1-505-132-11)の上に被せてあるウレタンシート(4-947-053-01)は溶けて駄目になっていたので、ポケットティッシュで代用しました。 ティッシュは薄い2枚が重なっていますので一度開いて 10 枚程度が重なるように折り重ねます。 ティッシュの重ね枚数を調整して好みの音質に整えることができます。 私の場合 10 枚くらいがちょうど好みの感じでした。 紙は癖のない音で個人的にはスポンジよりも好印象です。 ウレタンシート(4-947-053-01)を装着しない状態では高音が暴れてハイ上がりな音になってしまいます。 音質にかなり影響があるパーツなので気になる方は純正品を取り寄せた方が良いと思います。
3.ドライバーの上に、重ねたティッシュを置いてフローティングベース(4-946-222-01 / 4-946-223-01)にビス止めします。
4.コードをハンダ付けします。
両ユニットともにハンダ付けしますが、元の位置に間違いのないようにします。5.ハウジング(4-946-226-01 / 4-946-227-01)を取り付けます。
フローティングベース(4-946-222-01 / 4-946-223-01)には写真の赤丸印の位置にビス(7-685-135-19)が入る穴が空けてあり、後からビスを入れてハウジングを固定することができるようになっています。6.組み立てている途中でウレタンリング(4-946-189-01)も腐りかけていることに気がつきました。 ちょっと強く触るとボロボロと千切れる状態なので取り替えます。7.代替えとして手元にあった厚み 5mm のエプトシーラーを適当な幅に切って使用します。 ホームセンターなどに売っている隙間テープでも代用できると思います。8.エプトシーラーを貼ったところ。
ティッシュを円形に切らなかったためフロントスクリーン(4-946-190-01)が少しゴワゴワしています。9.イヤーパッド(4-946-220-01 / 4-946-221-01)を取り寄せました。
ソニーカスタマサービスへ電話すると、あっという間に届きましたが、もうほとんど在庫はないようです。(2010年5月現在) これでまた5年くらいは大丈夫だとは思いますが、はたして次回も取り寄せができるのか?は怪しい感じです。
10.イヤーパッド(4-946-220-01 / 4-946-221-01)を取り付けると完成です。
かなり良い状態になりました。 時間を見つけてイヤーパッドの表革も自作してみたいと思います。
表革として使用する素材に良さそうなものが見つかったので、イヤーパッドを自作してみようと思います。
※ いつの間にかイヤーパッドの汎用品が販売されていたようです。 掛け心地など純正品と比べた場合の違いは分かりませんが、とりあえず交換可能な物があるようで少し安心です。
1.まず古いイヤーパッドの縫い糸をハサミで切って開きます。
革の部分を切らないように注意します。2.イヤーパッドは4つのパーツで構成されているようです。
写真は右側のイヤーパッドを分解したところですが、左側も同様に分解します。スポンジのみ再利用します。3.型紙を作ってみる。
分解したパーツをスキャンして型紙を作ってみました。 型紙のデータは公開しますので自由に使用してください。 MDR-CD3000 は左右でイヤーパッドの形が対象となっています。 このデータは右側用ですので左側のイヤーパッドを作成する場合は、この型紙を反転して使用してください。4.イヤーパッドの表革として人工セームを使用してみようと思います。
今回選択したのはエツミの E-252 という人工セームのクリーニングクロスです。 色は濃いグリーンを選択しました。 本当は黒が良いのですが、クリーニングクロスなのでさすがに黒は用意されていないようです。 肌触りも良く、純正の素材に比べ通気性や吸水性に優れ長時間の使用でも蒸れないことが期待できそうです。 また、素材自体の耐久性も良いと思います。(洗濯も可能です) パーツAとパーツBを人工セームで作成し、パーツCは、ヘッドバンドを修理した牛皮革の裏で作成しようと思います。5.型紙に合わせて材料を切り出したところ。
6.まず、パーツAとパーツCを表どうしが重なるように合わせて中抜き部分を縫い合わせます。 縫い目は見えなくなるので適当に縫ってしまいます。 発売当初のイヤーパッドはこの部分が接着剤で接着されていたので、すぐに破れてスポンジが見える状態になりましたが、いつの頃からかちゃんと縫うように変更されているようです。ただ素材自体は同じものなので何年かすると表革がボロボロになってくることには変わりありません。7.表革を穴の中から抜き出すように裏返しにしてスポンジをセットします。
8.外周を縫い合わせていきます。
この縫い目も見えなくなるので適当に縫ってしまいます。9.最後にパーツBを縫いつけます。
10.パーツBを裏返しにして完成。
ちょっと微妙な仕上がりです・・・11.作成したイヤーパッドをヘッドフォンに取り付けてみた。
・・・(;^_^A
装着感は悪くありません。蒸れも少ない感じです。ただ見た目が・・・ 色が悪いのか、風化した合成皮革のような感じに見えてしまいます。 メーカーがこの部分にバックスキンや布をほとんど使用しない理由がわかったような気がします。 何か良い素材を見つけたらまた挑戦してみたいと思います。
試しに汎用品として売られているイヤーパッドを買ってみました。
1.少し堅くて、表面がすべすべしています。
2.右上が純正パッドで左下が汎用品です。
表面のシボの状態も違いますが、触った感触は全く別物です。 純正のパッドは柔らかくて肌触りが良いものですが、汎用品は少し堅くすべすべしていてビニールっぽい感じです。 長時間使用していると蒸れたり耳が痛くなったりしそうです。 耐え難いほど酷い物ではありませんが、こうして比べると明らかに違います。3.もう一つ問題が・・・
パッドは本来左右で形状が対称になっていて、右と左でそれぞれ専用になっています。 でも、この汎用品は両方同じ形をしていて左側のパッドしか用意されません。 発送ミスかな?と思って問い合わせたのですが、ミスではなく、右側には上下を逆にして無理矢理取り付けるんだそうです。 (゜_゜;4.取り付けてみた・・・
確かに取り付けできないわけではありません。 パッと見た目には問題なさそうです。 ちょっと複雑な気分ですが、ネトネトになったパッドよりはましですし、用意してくれただけでも良しとしましょうか。・
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5.最近は Amazon でイヤーパッドが安価に売られているようです。 試しに買ってみたところ、こちらはちゃんと左右が対象になっており、表革もソフトで純正品に近い肌触りです。 シボの感じも似ていてかなり良い感じです。6.若干小さく縫製も甘いようで、取り付けた後に変な皺ができたりと、収まりはいまいちよくありませんが、値段も安いしこれで十分だと思います。・
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7.これは日本製の本革イヤーパッドです。いつの間にかこんなものが販売されているようです。8.純正のイヤーパッドほどではありませんが、かなりソフトで触り心地が良いものです。縫製もていねいです。9.見た目の質感は最高です。・・・でも、このイヤーパッド、本革が使用されているのは直接耳に当たる部分のパーツだけのようです。 それ以外のパーツは合皮なので、結局 5 年位でダメになると思います。 純正と同じプロテインレザー製のものも安価に提供されているようなので、そちらの方で良かったかも・・・
ヘッドフォンカバーを見つけたので試しに買ってみました。
1.買ったのは Super Stretch Headphone Cover という商品です。 色々な色があるようですが、無難に黒を選んでみました。因みにLサイズです。2.とても伸縮性が良く、肌触りも良い素材です。3.装着してみた。
Lサイズでぴったりです。蒸れも軽減してくれそうな感じです。4.加水分解して少しべとつくパッドの上から被せてみましたが、サラサラして良い感じです。 見た目が気にならなければ、古くなったイヤーパッド対策としてこれもありかな?と思います。
このヘッドフォンはとても良い音がしますが、使用されている素材に難があり 5 年程度で色々な場所がボロボロになってきます。 特に普段手で触るヘッドバンドやイヤーパッドの表革は手触りが非常に良い反面、経年でベトベトになったり剥がれたりして周りを黒く汚してしまいます。 何度交換してもまた同じことになるため、経年劣化の少ない別の素材を使用して修理してみました。
本革仕様になったヘッドバンドは、わりと質感も良くて今後 10 年以上は大丈夫だと思います。 縫い物が得意な人に頼めばもっと完成度は上がると思います。
ちょっとお勧めの改造ですが、実践される場合はユニットやパーツの破損、紛失など、色々なトラブルも考えられますので、くれぐれも慎重かつ自己責任において作業するようにしてください。
因みに、サービスマニュアルによると純正部品で修理する場合は以下のものが必要になります。